【レポート】文京区初のクラフトビールがまちづくり?〜ビールづくりを学ぶ・麦汁づくり体験〜

9月21日(土)午後、我楽田工房ギャラリーにて、文京区初のクラフトビール醸造所「カンパイ!ブルーイング」代表・荒井祥郎さんによる「麦汁づくり体験会とクラフトビール試飲会」が行われました。

クラフトビールでまちづくりを掲げる荒井さん。
神田川沿いに新設された醸造所で 早稲田・神楽坂・江戸川橋エリア 初のクラフトビールを製造し、そのできたてのビールを1階に併設されているビアバー「Granzoo」へ直接提供することで、地域住民の憩いの場を作っています。

荒井さんのビールづくりのきっかけは、 留学先のドイツで、街を活気づけるビール醸造所(ブルワリー)と出会ったところにあるようです。

今回の授業では、そのビール醸造所を作るまでの道のりとビールづくりの知識を講義していただき、最後は実際にビールづくりの基礎である麦汁づくりを体験していきます。

クラフトビールでカンパイ!

まず初めに生徒の皆さんへ荒井さんから、カンパイ!ブルーイングのクラフトビール「おぼろの坂ホワイト」の試飲が配布されました。

おぼろの坂酒ホワイト(アルコール度数5.3%)

「おぼろ坂ホワイト」はベルギーホワイトビールといわれる種類で、オレンジビールとコリアンダーシードを使った華やかな香りと軽めのスッキリした飲み口のビールです。

クラフトビールを学ぶ

ビールの試飲により空気も和んだところで、本日の授業が開始されました。荒井さんがカンパイ!ブルーイングを立ち上げたのは今年度の初め。それ以前は東京で都市計画のコンサルティング会社に勤めていました。ドイツのビールに出会ったのは大学院生時代、3年間まちづくりを学ぶためにドイツに留学していたときのことです。

ドイツではビールは水や清涼飲料水と同レベル価格で売られており

  • 安く、旨く、気軽なの飲み物であること
  • みんな好きな銘柄があること・いろいろな飲み方があること
  • 基本的には麦芽、ホップ、水、ビール酵母のみを原材料として、それらの組み合わせで様々な種類のビールがつくられていること
  • それぞれの町に醸造所があり、街のにぎわいを生み出したり、地域住民の集まる場となっていること

など多くのドイツ特有のビール事情を肌で感じていたと言います。ですが当時は、あくまで留学に来ている学生。ドイツビールについての深い知識を調べることはなかったそう。しかし都市計画の観点から,場所や空間の使い方、まちづくりの仕方には関心があったと荒井さん。印象に残ったブルワリー(醸造所)のお話や、日本で実現することの難しさなどを説明していただきました。

まちを活気づけるブルワリー

帰国後は都内の都市計画のコンサル会社に就職。社会状況の変化や情勢を踏まえ20~30年先の都市像を描き、施策や事業を計画、それらの実行支援に携わっていた荒井さん。しかしそれらの実現化には時間を要し、政治や社会情勢の変化による影響を大きく受けてしまうことが多いため、なかなか困難なことが多かったそうです。次第に計画実現の難しさや、もどかしさを感じ、自分で何か直接的に街づくりへの貢献ができないか? と考え始めました。そうして思い浮かんだのが、ドイツで体験した醸造所がまちのにぎわいを生み出しているという風景だったのです。

ビールで、まちづくりをしよう。

ビールでまちづくりをしよう。そう決めた荒井さんは、就職してから20年住み続けた早稲田周辺にお店を構えることを決意。かつて印刷・出版業の城下町だった江戸川橋・早稲田・神楽坂のエリアは住宅街となっており、たくさんの人が生活しています。一方、川沿いの環境が改善された自然が豊かで歴史的な資源も多数存在、活動的な人やギャラリーも多い。愛着のある住み慣れた町は、まちづくりの環境がそろっていたのです。

つくるビールはクラフトビール。生産者の顔がわかり、作り手の個性を反映したビールです。世界的にも第3次クラフトビールブームが来ており、日々研究され進歩している分野。限られたスペースでも作ることができるのもクラフトビールの特徴で、都内の小さなスペースでも作ることができます。実際、早稲田にあるカンパイ!ブルーイングの醸造所は3階建てとはいえ、かなりコンパクトですがドイツでの体験から、小さな醸造所でも街のにぎわいづくりを牽引していけると考えたそうです。

地域の憩いの場を作りたいという荒井さんの意図は、ビールの名前に現れています。江戸川橋・早稲田・神楽坂エリアは坂が多いことにちなみ、それぞれのビールには坂の名前が冠されているのです。試飲した“おぼろの坂ホワイト”は、新宿区矢来町にある坂。おぼろがかる、という霞のイメージから命名されました。また季節性のあるビールも作りたいと考えているそうで、その場合はまずは一階に併設されているビアバー・グランズーで提供していく、とのことです。

麦汁づくり体験

ここで一旦、荒井さん自身のお話は一区切り。後半は麦汁づくりにつながるビールの製造工程の解説がされました。なかでも印象に残ったのはラガービールとエールビールの違い。これらはビール酵母の種類に違いがあり、基本的にラガービールは製造を始めてから口に入るまで2~3か月、エールビールは約1か月。味はもちろん製造期間にも大きな違いがある、というお話でした。まれに缶のビールに含まれているコーンスターチについての質問に対しても解説があり、糖分であるコーンスターチを加えることで麦芽の量を抑えられる一方でアルコール度数を高め、味もすっきりとなる効果が期待できるそう。

ここからは実際にビールづくりの最初のステップ、麦汁づくりを体験していきます。といっても難しい手順は一切なく、発芽した麦芽を2.5倍程度の量の約70℃に温めたお湯に浸すだけ。

一瞬でサイロのような穀物の匂いが立ち込めます。

醸造所見学

麦芽のでんぷん質が糖に分解されるのには少し時間がかかるので、それを待っている間に近くにあるカンパイ!ブルーイングの醸造所の見学へ。

1階部分がビアバーとなっており、2∼3階は醸造所となっている。
荒井さんこだわりのタンコンパクトサイズの醸造設備。

完成したビールはタンクから樽に詰められ、2階の冷蔵庫からパイプを通り直接、ビアバーグランズーでグラスに注がれる。

麦汁を飲む

見学が終わると 糖化が進み、麦汁が完成していました。
荒井さんが一人ひとりに麦汁を注ぎます。

麦汁など飲む機会がないため、参加者一同、素朴な甘さと美味しさに驚きの声をあげていました。

一人ひとりに注がれる麦汁
できたてほやほやの麦汁

まとめ

3月にオープンしたカンパイ!ブルーイング。授業前は、ビールでまちづくり……?と疑問に思っていましたが、荒井さんお話を聞いてとても理にかなった、それでいてユニークな考え方なんだと感心しました。オープンの際の写真では、たくさんの人がカンパイ!ブルーイングのお酒を楽しんでおり、にぎわっている姿があり夢に向かい着実に進んでいることが見てとれます。なんてことない経験が大事なところで役に立つ、無駄な経験って意外とないのかもしれない。

まちづくりだけでなく、日々の向き合い方を考え直す機会にもなる、内容の濃い2時間でした。

ライター『高橋昂希』
ロックとかわいいものが好きな大学生ライター。できないことは勢いでどうにかするO型の鏡。約束はちゃんと守ります。

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